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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2578号 決定 1992年10月28日

主文

1  相手方らは、本決定到達の日から五日以内に、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)から退去せよ。

2  執行官は、相手方らが本件建物から退去を命じられていることを公示しなければならない。

理由

1  本件は、売却のための保全処分として主文記載の命令を求める事件である。

2  記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人(編者注 ○○不動産ファイナンス)は、平成三年三月八日、株式会社甲水産(以下「甲水産」という。)所有の本件建物につき、当庁に根抵当権実行として競売を申立て、同日競売開始決定がなされ、同月一三日差押登記がなされた。

(2)  本件建物は、もと乙(本件基本事件の債務者会社の代表者)の所有であったが、申立人が乙に対し、平成四年二月五日(到達日同月六日)、抵当権実行通知をしたところ、甲水産は、乙から、同月一八日に至り、本件建物につき同月五日売買を原因として所有権移転登記を受けた。そして、同月一八日受付(上記所有権移転登記と連番)で、やはり同月五日設定を原因として、甲水産と同系列の相手方○○・インターナショナル株式会社(以下「相手方A会社」という。)が、本件建物に賃借権設定登記をした。当時の甲水産の代表者○田○久は、相手方A会社の会長である○川○啓宅を住所としていた。○川は、申立人会社の調査によれば、かつて○川組組長であったが、その後解散し、実業界に転身したとのことであった。

(3)  平成三年三月ころ、執行官及び評価人が、現況調査ないし評価のために本件建物に臨場したが、当時、相手方A会社は、本件建物において、「TIPS」名の看板を掲げ、室内に事務机・応接セットを置いていたが、未だ正規の営業形態をなしているとは思えない状況であった。相手方A会社は、執行官及び評価人に対し、賃料三年分(約二九〇〇万円)を全額前払いしていると主張した。

(4)  申立人は、平成三年四月一五日、相手方A会社の賃借権は、申立人の根抵当権を害する意図的なものと思料されるとの上申書を当裁判所に提出した。これに対し、平成三年八月九日、相手方A会社の専務取締役と称する○觜○介及び同社の社員と称する○川○也が、申立人会社を訪れ、「落札まで待たずに、即決で処理するのであれば、申立人の債権を二億円で買い取る。」と申し入れてきた。その際、○觜らは、申立人が当庁に申立てた別の競売事件の物件の話をし、同物件を占有している○○エンタープライズの○川という者は住吉連合の幹部であるとの話をするなどした。そこで、応対した申立人会社の社員は、上記○觜及び○川は、経営豊富な事件屋との印象を受けた。

(5)  平成三年九月一二日、当裁判所は、期間入札による売却実施命令(入札期間平成三年一一月一三日から同月二〇日まで)を発した。平成三年一一月初旬ころ、相手方A会社が、本件建物の占有を解いて空室の状況になった。そこで、申立人が入札し、売却許可決定を得た。ところが、申立人が入札した翌日の同月一九日、自○党同士会理事と称する丙なる者が申立人会社を訪れ、本件建物の占有状況については問題があるが、自分達が解決の労を取ると申し入れてきた。申立人が調査したところ、本件建物の前面ガラスに「政治結社」 B社 日本義塾 赤坂支部」なるシールが貼られ、相手方政治結社B社日本義塾総本部(以下「相手方B社」という。)が占有している状況であった。また、平成四年二月七日には、相手方B塾頭代表者○槻○治が申立人会社を訪れ、「後のことは、条件次第で話し合いで解決するから、落札して貰いたい。」と申し入れてきた。しかし、申立人は落札後いかなる条件を提示されるか、いかなる手段を用いてこられるか不安であったので、代金の納付を見合わせた。その後、平成四年二月から三月にかけて、上記丙と○槻は、数回申立人会社を訪れ、「三億五〇〇〇万円での債権の買取り」の話を持ち込んだりした(なお、本件競売の申立の被担保債権は元金が九億円である。また、最低売却価額は、当初約四億六〇〇〇万円であったが、その後約三億七〇〇〇万円に変更された。)。

(6)  平成四年三月一二日、当裁判所は、期間入札の方法による売却実施命令を発したが、適法な入札がなかった。平成四年八月には、本件建物を占有するものはなく、空室の状況となった。当裁判所は、平成四年九月二五日、期間入札による売却実施命令(入札期間平成四年一一月二五日から同年一二月二日まで)を発した。

申立人は、再び相手方らが、本件建物を執行妨害を目的として占有するおそれがあるとして、平成四年一〇月二日、当庁に本件建物につき、甲水産を相手方として、占有移転禁止及びその旨の公示を求める保全処分を申し立てた。当裁判所は、同月五日これを認容した。

(7)  申立人は、同決定の執行を申し立て、同月八日、執行官は、本件建物に執行に赴いた。本件建物には、応接セット一組があるのみで、事務所として使われている様子はなかったが、甲水産の元代表取締役で、相手方A会社の社員である前記○田○久及び前記○川○也が在室していた。○川は、執行官に対し、本件建物は、相手方Bが事務所として使用していると主張した。前記○田は、相手方Bの代理の肩書きで執行調査に署名した。

3  以上認定の事実、すなわち、(1)甲水産の元代表取締役である○田は、相手方Aの会長である○川宅を住所とし、相手方Bの代理であると称していること、(2)本件建物についての甲水産への所有権移転登記と相手方Aの賃借権登記は、根抵当権実行通知後、これに近接して、同日付(連番)でなされていること、(3)相手方Aの関係者及び相手方Bの○槻が、申立人の債権の買い取りの申し入れをしていること、(4)相手方Bは、申立人会社が入札した直後に本件建物を占拠し、一旦立ち退いたが、平成四年九月二五日、売却実施命令が発令されるや、再度本件建物を、相手方甲会社とともに占有していること、によれば、相手方らは、甲水産と通謀の上、甲水産の占有補助者として、執行妨害を目的として、本件建物を占有しているものと認められるところ、これらの執行妨害を目的とする者が、本件建物を占有していることにより、本件建物の価格は著しく減少することになる。また、相手方らは、本件建物の占有を他に移転するおそれがあるから、相手方らに対して建物退去の保全処分が発令されたことを公示する必要性がある。よって、申立人の本件申立は理由があるから、これを認容することとし、申立人に相手方らに対し、それぞれ金三〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官 松丸伸一郎)

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